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源氏物語全講会 | 岡野弘彦

源氏物語全講会

第11回 「帚木」より その2

源氏と頭の中将が理想の女性像について語り始める。左馬頭、藤式部の丞が加わり、各階級の女性の品格や、祭りと直会における女性の美しさ等に言及する。

親など立ち添ひもてあがめて、おひさきこもれる

 親など立ち添ひもてあがめて、おひさきこもれる、窓のうちなるほどは、たゞかたかどを聞き伝へて、心を動かす事もあめり。かたちをかしく、うちおほどき、若やかにてまぎるゝ事なき程、はかなきすさびをも人まねに心を入るゝ事もあるに、おのづから一つゆゑづけて、しいづる事もあり。見る人、おくれたる方をば言ひ隠し、さてありぬべきかたをばつくろひてまねび出だすに、それしかあらじと、そらに、いかゞはおしはかり思ひくたさむ。まことかと見もて行くに、見劣りせぬやうはなくなむあるべき」と、うめきたるけしきも恥づかしげなれば、いとなべてはあらねど我おぼしあはする事やあらむ、うちほゝゑみて、(源氏)「そのかたかどもなき人はあらむや」と宣へば、(中将)「いとさばかりならむあたりには、誰れかはすかされ寄り侍らむ。とる方なく口をしききはと、優なりとおぼゆばかりすぐれたるとは、数等しくこそ侍らめ。

人の品高く生まれぬれば、人にもてかしづかれて

 人の品高く生まれぬれば、人にもてかしづかれて、隠るゝ事おほく、自然にそのけはひこよなかるべし。中の品になむ、人の心々、おのがじゝのたてたるおもむきも見えて、わかるべき事かたがた多かるべき。下のきざみといふきはになれば、殊に耳たゝずかし」とて、いとくまなげなる気色なるもゆかしくて、(源氏)「その品々やいかに。いづれを三つの品におきてか分くべき。本の品高く生まれながら、身はしづみ、位みじかくて人げなき。又、なほ人の上達部などまでなりのぼり、我はがほにて家のうちを飾り、人におとらじと思へる、そのけぢめをばいかが分くべき」と問ひ給ふ程に、左の馬の頭、藤式部の丞、御ものいみにこもらむとて参れり。

世の好きものにて、ものよく言ひとほれるを

 世の好きものにて、ものよく言ひとほれるを、中将まちとりて、このしなじなをわきまへ定め争ふ。いと聞きにくき事多かり。

「なりのぼれども、もとよりさるべきすじならぬは、世の人の思へる事も、さはいへど、なほ異なり。また、もとはやむごとなきすじなれど、世にふるたづき少なく、時世に移ろひて、おぼえおとろへぬれば、心は心として、ことたらず、わろびたる事ども出でくるわざなめれば、とりどりにことわりて、中の品にぞおくべき。受領といひて人の国の事にかゝづらひ営みて、品さだまりたる中にも、又きざみきざみ有りて、中の品のけしうはあらぬ、えり出でつべき頃ほひなり。

なまなまの上達部よりも、非参議の四位どもの

 なまなまの上達部よりも、非参議の四位どもの、世のおぼえくちをしからず、もとのねざしいやしからぬ、やすらかに身をもてなしふるまひたる、いとかはらかなりや。家の内にたらぬ事など、はたなかめるまゝに、はぶかず、まばゆきまでもてかしづける娘などの、おとしめがたくおひいづるも、あまたあるべし。宮仕へにいでたちて、思ひかけぬさいはひ取り出づるためしども多かりかし」など言へば、(源氏)「すべてにぎはゝしきによるべきななり」とて、笑ひ給ふを、(中将)「こと人の言はむように心えずおほせらる」と、中将にくむ。

「もとのしな、ときよのおぼえうちあひ...

 「もとのしな、ときよのおぼえうちあひ、やむごとなきあたりの、うちうちのもてなしけはひおくれたらむは、さらにも言はず、なにをしてかくおひ出でけむと、言ふかひなくおぼゆべし。うちあひてすぐれたらむもことわり、これこそはさるべき事とおぼえて、めづらかなることと、心も驚くまじ。なにがしが及ぶべきほどならねば、上が上はうちおき侍りぬ。さて世にありと人に知られず、さびしくあばれたらむむぐらの門に、思ひのほかに、らうたげならむ人の、とぢられたらむこそ、限りなくめづらしくはおぼえめ。いかではたかゝりけむと、思ふよりたがへる事なむ、あやしく心とまるわざなる。

父の年老い、ものむつかしげに太りすぎ

 父の年老い、ものむつかしげに太りすぎ、せうとの顔にくげに、思ひやりことなることなき閨の内に、いといたく思ひあがり、はかなくしいでたることわざも、ゆゑなからず見えたらむ、かたかどにても、いかゞ思ひのほかにをかしからざらむ。すぐれてきずなき方の選びにこそ及ばざらめ、さるかたにて棄てがたきものをば」とて、式部を見やれば、「我が妹どもの、よろしき聞こえあるを思ひて宣ふにや」とや心うらむ、ものも言はず。「いでや、上の品と思ふにだに、かたげなる世を」と君はおぼすべし。白き御衣どものなよよかなるに、直衣ばかりをしどけなく着なし給ひて、紐などもうち棄てて、添ひ臥し給へる御ほかげ、いとめでたく、女にて見奉らまほし。この御ためには、上が上を選り出でても、猶あくまじく見え給ふ。

コンテンツ名 源氏物語全講会 第11回 「帚木」より その2
収録日 2001年11月8日
講師 岡野弘彦(國學院大學名誉教授)

講座名:平成13年秋期講座

収録講義映像著作権者:実践女子大学生活文化学科生活文化研究室

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「源氏物語巻名歌」から

プロフィール

講師:岡野弘彦
(国学院大学名誉教授)

歌人。大正13年(1924年)、三重県に生まれる。國學院大學国文科に在学中より折口信夫に学び、雑誌「鳥船」に参加。折口の没年まで師事する。 昭和42年、処女歌集「冬の家族」で現代歌人協会賞を受賞。昭和54年から宮中歌会始の選者を努める。
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