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源氏物語全講会 | 岡野弘彦

源氏物語全講会

第166回 「横笛」より その3

夕霧は源氏に一条の宮を訪ねた時の様子を話し、夢の報告をし、源氏は笛を預かる。柏木は、夕霧の遺言も報告するが、源氏は多くを語らない。講義の後半では「『源氏物語』は歌集でもある」と日本の歌について解説している。

対へ渡りたまひぬれば、

対へ渡りたまひぬれば、のどやかに御物語など聞こえておはするほどに、日暮れかかりぬ。昨夜、かの一条の宮に参うでたりしに、おはせしありさまなど聞こえ出でたまへるを、ほほ笑みて聞きおはす。あはれなる昔のこと、かかりたる節々は、あへしらひなどしたまふに、
「かの想夫恋の心ばへは、げに、いにしへの例にも引き出でつべかりけるをりながら、女は、なほ、人の心移るばかりのゆゑよしをも、おぼろけにては漏らすまじうこそありけれと、思ひ知らるることどもこそ多かれ。
過ぎにし方の心ざしを忘れず、かく長き用意を、人に知られぬとならば、同じうは、心きよくて、とかくかかづらひ、ゆかしげなき乱れなからむや、誰がためも心にくく、めやすかるべきことならむとなむ思ふ」
とのたまへば、「さかし。人の上の御教へばかりは心強げにて、かかる好きはいでや」と、見たてまつりたまふ。

・舌の体操

「何の乱れかはべらむ。

「何の乱れかはべらむ。なほ、常ならぬ世のあはれをかけそめはべりにしあたりに、心短くはべらむこそ、なかなか世の常の嫌疑あり顔にはべらめとてこそ。
想夫恋は、心とさし過ぎてこと出でたまはむや、憎きことにはべらまし、もののついでにほのかなりしは、をりからのよしづきて、をかしうなむはべりし。
何ごとも、人により、ことに従ふわざにこそはべるべかめれ。齢なども、やうやういたう若びたまふべきほどにもものしたまはず、また、あざれがましう、好き好きしきけしきなどに、もの馴れなどもしはべらぬに、うちとけたまふにや。おほかたなつかしうめやすき人の御ありさまになむものしたまひける」
など聞こえたまふに、いとよきついで作り出でて、すこし近く参り寄りたまひて、かの夢語りを聞こえたまへば、とみにものものたまはで、聞こしめして、思し合はすることもあり。

 

<参考>
すこし寝入りたまへる夢に、かの衛門督、ただありしさまの袿姿にて、かたはらにゐて、この笛を取りて見る。夢のうちにも、亡き人の、わづらはしう、この声を尋ねて来たる、と思ふに、「笛竹に吹き寄る風のことならば末の世長きねに伝へなむ思ふ方異にはべりき」と言ふを、問はむと思ふほどに、若君の寝おびれて泣きたまふ御声に、覚めたまひぬ。
この君いたく泣きたまひて、つだみなどしたまへば、乳母も起き騷ぎ、上も大殿油近く取り寄せさせたまて、耳挟みして、そそくりつくろひて、抱きてゐたまへり。

「その笛は、ここに見るべきゆゑあるものなり。

「その笛は、ここに見るべきゆゑあるものなり。かれは陽成院の御笛なり。それを故式部卿宮の、いみじきものにしたまひけるを、かの衛門督は、童よりいと異なる音を吹き出でしに感じて、かの宮の萩の宴せられける日、贈り物に取らせたまへるなり。女の心は深くもたどり知らず、しかものしたるななり」
などのたまひて、
「末の世の伝へ、またいづ方にとかは思ひまがへむ。さやうに思ふなりけむかし」など思して、「この君もいといたり深き人なれば、思ひ寄ることあらむかし」と思す。

遊びの心、風雅の心
・日本人の伝統的な遊びの心。魂を感動させることができることが遊び。

・『古事記』や『日本書紀』の世界から続いてきた、そして源氏物語で大事にしている、本当の意味の「雅」の、「遊び」の文化史を根底においた、近代への反省がでてこないと、「戦争の時代の近代への反省」をもったことにはならない。

<参考>
第146回若菜下 その4
8. 日本人にとっての遊び
http://angel-zaidan.org/genji/146/#title-08

その御けしきを見るに、

その御けしきを見るに、いとど憚りて、とみにもうち出で聞こえたまはねど、せめて聞かせたてまつらむの心あれば、今しもことのついでに思ひ出でたるやうに、おぼめかしうもてなして、
「今はとせしほどにも、とぶらひにまかりてはべりしに、亡からむ後のことども言ひ置きはべりし中に、しかしかなむ深くかしこまり申すよしを、返す返すものしはべりしかば、いかなることにかはべりけむ、今にそのゆゑをなむえ思ひたまへ寄りはべらねば、おぼつかなくはべる」
と、いとたどたどしげに聞こえたまふに、
「さればよ」
と思せど、何かは、そのほどの事あらはしのたまふべきならねば、しばしおぼめかしくて、
「しか、人の恨みとまるばかりのけしきは、何のついでにかは漏り出でけむと、みづからもえ思ひ出でずなむ。さて、今静かに、かの夢は思ひ合はせてなむ聞こゆべき。夜語らずとか、女房の伝へに言ふなり」
とのたまひて、をさをさ御いらへもなければ、うち出で聞こえてけるを、いかに思すにかと、つつましく思しけり、とぞ。

日本の歌について

・「『源氏物語』54条の中に800首ほどの和歌が散りばめられている。『源氏物語』は歌集でもある。」

・連歌、連句、芭蕉の発句。

・折ロ信夫の神の問題。

「魂の遊びというものを持たないと、我々の生き方は非常にぎすぎすと乾ききった、別々の個体がこすり合っているような、そんな世の中になっていく。」

「自分の心の苦しみや喜びこそ、一番たしかな、人間を考えるための、必須の基盤である、ということは確かなことだと思います。」

「源氏物語が普遍化していくのはいいけれども、一番、芯の柱のところが空洞になってしまっている。」

コンテンツ名 源氏物語全講会 第166回 「横笛」より その3
収録日 2012年5月12日
講師 岡野弘彦(國學院大學名誉教授)

平成24年春期講座

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「源氏物語巻名歌」から

プロフィール

講師:岡野弘彦
(国学院大学名誉教授)

歌人。大正13年(1924年)、三重県に生まれる。國學院大學国文科に在学中より折口信夫に学び、雑誌「鳥船」に参加。折口の没年まで師事する。 昭和42年、処女歌集「冬の家族」で現代歌人協会賞を受賞。昭和54年から宮中歌会始の選者を努める。
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