| DATA | |
| 学校 | 中央大学杉並高等学校 |
| 実施年月日 | 2025年4月~2026年2月 |
| 担当教員 | 教諭(外国語科)大塚 圭 (国語科)小泉 尚子 |
| テーマ | 「C.S.JOURNEY(中杉版探究学習)」 |
※学年や肩書などはコンテンツ収録時のものです。
中央大学の附属校である中央大学杉並高等学校(東京都杉並区)は、独自の探究学習カリキュラム「C.S.JOURNEY(中杉版探究学習) 」を2022年4月から取り入れています。その達成目標として掲げているのが、SDGsのターゲット4.7です。
「C.S.JOURNEY」は、同校全体のシステムとして、3つのプロセスで行われます。まず1年次は〈準備 Preparation〉の段階として、課題の設定(問いの立て方)やSDGsそのものについて学びます。2年次は〈参画 Participation〉をテーマに、研修旅行や大学との連携学習を経験。そして3年次は、〈自立 Independence〉をめざして、これまでの学びを卒業論文や理数探究といった形にまとめます。この3ステップを踏むことで、高校3年間で「何事にも積極的に挑戦し、失敗を糧に、たくましく生きていくレジリエンスの高い人間」の育成をめざします。
今回は、 1、2年生を中心に同校のカリキュラムの一部をレポートします。
SDG4(教育目標)の7番目に掲げられた達成目標です。
「2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする」
ここに書かれている「人権」「男女の平等」「平和」などの概念は、他のSDGsの目標達成にも欠かせない要素です。 「SDG4.7」は、教育を通じて持続可能な社会の基盤をつくることを目標としており、世界的に重視されています。
1年次は、2年生の「参画」を見据え、基本的な「探究」のプロセスを身に付けることを目的に、下図のように授業を進めていきます。
1年次〈準備 Preparation〉の前半は、同校のオリジナル教材「探究×SDGs~ワークシート1枚からの探究活動~」に基づいて授業が進められていきます。
2025年6月21日には、環境・開発・人権・平和などについて“考える力"を養う授業として、 「発展活動 ロールプレイで考えよう」が実施されました。これは「イード王国」という架空の国でダム開発が行われるという設定で、模擬討論を行う授業です。
まず、生徒たちは7人でひとつのチームとなり、それぞれ以下のロール(立場)を担当します。
①議長、②日本国外務省ODA担当者、③イード国の国土交通省役人、 ④シズーム村(ダム建設予定地)の村人 ⑤ウカーブ村(建設予定地の下流の村)の 村民、⑥イード国の建設業者、⑦森に住むゾウ
そして、ダム建設がもたらすメリット/デメリットなどについて、それぞれの立場になりきって話し合いを進めていきます。あるチームでは、以下のような議論が展開されました。
④シズーム村の村民「ダム建設により、下流のウカーブ村の農業が潤うから、ダム建設によって家がなくなった住民を受け入れてもらいたい」
⑤ウカーブ村の村民「それにはお金がかかるので、ODAを行う日本に農産物を購入してもらいたい」
②ODA担当者「いや、それは日本としても支出が増えるので難しい。もし見返りとして日本の工業製品の輸入量を増やしてくれるなら検討する」
④ゾウ「自分たちとしても棲み家を奪われるので、日本とイード王国には何らかの補償をしてほしい。日本の動物園で自分たちを受け入れてもらえないだろうか?」
最後に、ダム建設に賛成か反対か、チームごとに結論を出し、その理由をクラス全体に向けて発表しました。この授業を通じて、「相手の立場になって考える」というSDGsを実現するうえで最も大切な精神が育まれます。
1年次後半は、例年1月に実施されるフィールドワークを軸に授業が進められていきます。まず、フィールドワークの内容を生徒自身が計画。行き先や学習テーマ、当日のタイムスケジュールなどを班単位で話し合い、計画書にまとめました。そして、とくに優秀な計画書を作成した8班によるプレゼンテーションが10月25日に行われました。
学習テーマは、伝統工芸、農業・一次産業、動物福祉、都市文化・観光、海産物流・市場、オーバーツーリズムなどさまざまでした。しかし、「現地での学びをSDGsの理解につなげる」という方針は全8班共通していました。
たとえば、4班は「埼玉県川越市」を行き先として選択。蔵造りの町並みや「時の鐘」などを見学し、「住みやすい街づくり」「在留外国人問題」について考察するプランを発表しました。
他にも横浜や築地といったエリアでのフィールドワーク計画を発表する班もありました。
生徒たちが考えたフィールドワークプランをもとに、最終的に以下の9コースが決定しました。①江ノ島、②横浜、③木更津、④川越、⑤豊洲築地、⑥浅草、⑦お台場・大手町、⑧下北沢、⑨日本橋
始業式翌日の2026年1月8日にフィールドワークが実施され、1年生約320人がそれぞれのコースを巡りました。
その2日後の1月10日には、9つの教室を使用してフィールドワークの成果発表会を実施。ひとつの教室に、各コースから少なくとも1グループが入るように振り分け、互いに成果を発表し合いました。
①江ノ島コースを巡ったあるグループは、鎌倉の海岸に打ち上げられた海藻を飼料の一部として育てた、鎌倉発のブランド豚 「鎌倉海藻ポーク」を紹介。開発・製造・販売に関わったさまざまな立場の方に話を聞き、この事業モデルの意義について発表しました。また、⑨日本橋コースのグループは、車いすに乗ってゴミ拾いをする「車いすスポGOMI」の体験を報告。「街をきれいにしながら、車いすならではの不自由さを実感できた」とのことです。
準備期間が1日だけだったにも関わらず、どのグループもスライド資料をしっかり用意して、要点を押さえた発表をしていました。生徒からは、「ただ現地に行って楽しむのではなく、現地で課題を見つけ、解決策や考察・分析ができていて、フィールドワークの意図をきちんと理解したとても良い発表会だった」「他のコースの発表を聞いて、新しい視点や学びを得ることができ有意義だった」といった感想があがりました。
2年次の〈参画 Participation〉では、生徒は2つのプロジェクトのいずれかを選択します。
「研修リーダープロジェクト」は、1月に実施される研修旅行
(全5コース)のリーダーとして、その内容や事前学習の方法など検討し、旅行を成功に導きます。
「アカデミックプロジェクト」は、自分たちで“問い"(学習課題)を立て、「文化活動」「グローバル」「STEAM」「商学・経済学」「法学・政治学」の5つの分野のアプローチを用いて解決方法を追究します。大学や研究機関 と連携し、より専門的な問題解決のアプローチ手法を身につけることで社会に参画することを目指します。
本記事では、「研修リーダープロジェクト(研修旅行×探究)」を中心に紹介します。
研修旅行のコースは、次の5つです。
・沖縄 ( 平和学習 ) ・・・ 沖縄戦跡・民泊プログラム・ 文化体験等
・奄美大島 ( 自然環境保全 )・・・ トレッキング・ カヌー体験とマングローブ ・文化体験等
・東北地方 ( 地方創生)・・・ 三陸鉄道防災学習列車・伝承館・備蓄倉庫・東北大学等
・マレーシア ( 多文化共生 )・・・ B&Sプログラム、カンポン(農村)ビジット等
・韓国 ( パートナーシップ ) ・・・学校交流、 B&Sプログラム、DMZ(非武装地帯) 等
2025年6月21日には、研修旅行5コースの情報共有会が行われました。この日までに「研修リーダープロジェクト」を選択した生徒たちは、文化祭チーム、広報チーム、しおりチームに分かれ、毎週1回集まり、フィールドワークをより充実したものにするための方法について協議してきました。今回はその成果をみんなの前でスライドや動画を用いて発表していきます。

文化祭チームでは、沖縄の理解を深めるために、同校の文化祭である「緑苑祭(りょくえんさい)」で「ちんすこう」の販売を企画。数ある沖縄名物の中で、なぜ「ちんすこう」を選んだかプレゼンテーションし、以下の4つを理由に挙げました。
・文化祭で沖縄の雰囲気を楽しんでもらえる。
・他の模擬店と重ならず、独自性が出せる。
・小さくて文化祭でも手軽に食べられる。
・仕入れのコストパフォーマンスが良い。

さらに、ちんすこうの魅力として、「石垣の塩、紅芋、黒糖などのフレーバーの違いで、カラフルな陳列になる。思わず写真に撮って、友達とシェアしてくれるのではないか」などと、SNS世代ならではの視点も共感を呼んでいました。
2年次後半は事前学習を経て、2026年1月8日から11日にかけて研修旅行が行われました。そして2026年2月21日には、その成果発表会を開催。5コース(マレーシア、韓国、奄美大島、沖縄、東北)のグループをバランスよく組み合わせて10教室に振り分け、互いの成果を発表し合いました。
マレーシアを訪れたあるグループは、観光地としてのマレーシアの魅力について考察。ここ数年の観光客の推移とともに、首都・クアラルンプールと地方都市との観光需要の格差などについての調査結果を発表しました。
また、奄美大島のグループは、野生化した家猫「ノネコ」が生態系を破壊している実態について調査。クロウサギ、ケナガネズミといった固有種をいかに保護し、生態系を守っていかなければいけないのか。その必要性について住民や保護活動に関わる方々の話をもとに考察しました。
1か月の準備期間があったため、いずれのグループもしっかりつくりこまれた発表内容でした。統計資料などのデータに基づく調査と、現地で暮らす方のインタビューをうまく組み合わせ、説得力のある考察を展開していました。
2025年6月4日に韓国の世宗(セジョン)高校、および世宗女子高校の生徒たち20名が来校し、交流会が開催されました。昨年度の研修旅行(現3年生が参加した韓国コース)で両校と親睦を深める機会があり、今回の交流会は両校の生徒が日本へ研修旅行に来たタイミングで実現したものです。
交流会の目玉として、互いの国について興味をもったことを自由に調べて、英語で発表し合うプレゼン大会が開催されました。日韓の相互理解を深め、今後の国際交流のヒントを得ることが狙いです。
中央大学杉並高校側では、今期、韓国への研修旅行を予定している2年生28名が4チームに分かれ、それぞれ以下のテーマを設定。
チーム1:伝統文化の保存の仕方とその違い
チーム2:教育の違い・格差社会
チーム3:若者たちの政治に対する熱意の違い
チーム4:北朝鮮との関係やDMZ(軍事境界線)について
チーム3、チーム4の発表では、日本のマスメディアがなかなか扱わないようなセンシティブな内容にも触れられ、日韓の相互理解として、とても意義深いものとなりました。韓国側チームの発表も、日本の文化や国民性などに深く踏み込んだものでした。今回の交流会の実施に向けて、3校の生徒は事前にオンラインでミーティングを2回実施しています。
また、発表会のあとにはセレモニーやゲーム、パフォーマンス披露などが行われ、親睦が深められました。今回の交流プロジェクトを終えて、韓国コース担当の前野先生は、「生徒に“日韓の違い"を感じてもらえたことが良かった。国際的感覚も磨かれ、英語の重要性も認識してもらえたと思う。来年以降もなるべく継続していきたい」と話します。
最後に、「C.S.JOURNEY」の担当教員である大塚 圭先生に、2025年度の授業を終えての感想を語っていただきました。
「2022年度から開始したC.S.JOURNEYは、多くの教員が関わり、よりよい段階に進んでいるように感じます。韓国の高校生との交流はその一例です。開始から3年が経過し、C.S.JOURNEYを経験した卒業生が大学で主体的にさまざまな活動に挑戦しているという報告も受けています。そのような卒業生を身近なロールモデルとして生徒に示せるようになりました。とくに1年生が探究活動の意義を理解し、イメージする助けになっています。
3年次では、1年次・2年次の集大成として卒業論文・理数探究に取り組みます。自身で設定したテーマを今まで得た探究のプロセスを活用して解決してほしいですね。C.S.JOURNEYでの学びを糧に、主体的に新しい価値を創造する力を身につけ、大学生・社会人として活躍することを期待しています」
| コンテンツ名 | 「C.S.JOURNEY(中杉版探究学習)」 中央大学杉並高等学校 |
| 取材日 | 2026年2月 |
| 取材 | 相澤良晃 |
| 監修 | 東京大学大学院教育学研究科・教授 北村友⼈ |