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源氏物語とシェイクスピア作品との対話 (3)

源氏物語とシェイクスピア作品との対話 (3)

講演

講演「たましひの物語―女性による歌物語の力」

okano[2]

岡野弘彦 國學院大学名誉教授

資料 岡野弘彦による会場配布レジュメ(PDF形式・750KB)

  1. 女のいろごのみ
  2. たなばたつめ/妬心の女神、妬心の皇后/源氏物語の女性たち

1.女のいろごのみ


(再生時間 27分45秒)

・いろせ、いろと、いろね、いろも

「いろせ、いろと、いろね、いろもは、古語辞典をお引きになれば最初に出てきますけれども、同母きょうだい、母親を同じくするきょうだいを言う言葉であるというふうにも言えるわけです。同時に、男性にとって理想的な女性が、いろねであり、いろもであるわけです。女性にとって理想的な男性が、いろせ、いろと。そうしますと、「いろ」という言葉が、大分想像がついてくるわけです。漢字で言いますと「色」を書くわけです。さらに、専ら漢語の熟字になりますと、「いろごのみ」というのは、「好色」という漢字と同じような感じで受けとめられてしまうわけであります。そうすると、いろせ、いろもの「いろ」ということは、古代のやまとことばではどういうことだったかといいますと、これも古語辞典などを引いてごらんになりますと、最初に出てくる意味は「選ぶ」ということです。自分の最も理想的なもの、自分の最も望ましいものを選択する。それが古語のやまとことばの「いろ」ということの一番重要な意味なんです。それを「いろごのみ」、すなわち「好色」という漢語の熟語の感覚で受けとめてしまうと、内容がずれていってしまう。
ところが、もともとの、いろせ、いろも、いろと、いろねという言葉に託していた「いろ」、さらに「いろをこのむ」という言葉は、理想的な異性を選択する。自分の最も願わしい異性を選び取るということなんです。」

・いざなみの神の愛と怒り

「そういうことを考えていきますと、女のいろごのみ、女性が自分の理想的な男性を選択するという形が非常に大事なことではなかったか。男のいろごのみ以前に、女のいろごのみがあったのではないかという感じがしてくるわけであります。それは例えば日本の神様の中で一番高い格を与えられている――古代から、時代によって、儒教的な影響を受けたり、神仏習合的な影響を受けたりして、天照大神は男性だという論が中世に起こってくることがありますけれども、古代から一貫して、天照大神は女性の神として日本書紀にも古事記にも伝えているわけです。そして、それは神に捧げるための稲をつくっている。田を営んで稲をつくっている。それから、機を織って神に着せる布を織っている。その天照大神はまさしく女性の神として伝えられているわけであります。」

2.たなばたつめ/妬心の女神、妬心の皇后/源氏物語の女性たち


(再生時間 34分15秒)

・外来の信仰と結びついた「たなばた」

「七夕と書いて、あれを「たなばた」と読むのは、どうしても漢字の中からは出てこない。日本のたなばた信仰というものがそれ以前にあって、水のほとりで常に訪れてくる聖なる神を迎えて、神を待って、そして布を織っている、そういうたなばたつめという信仰が固有にあったから、やがてそれが奈良時代の乞巧奠(きこうでん)、星祭の外来の信仰とくっついて、専ら中国の星祭的な信仰、考え方が、万葉集なんかでもたくさんの歌に詠まれている。また、平安朝の多くの歌に詠まれていく。」

・岩長姫、木花咲耶姫

「たなばたつめとして、まさしく地上から少し高い棚、あるいは桟敷というふうな聖なる場所をつくって、そこで時を限って――やがて1年に一遍、聖なる神が訪れてくると、新しい年がやってくる、春がやってくるということになるわけですが、その聖なる訪れ人を待ち受けて、その人に着せるための機を織り、水のほとりで聖なる時を過ごしている。そういう女性があって、それをたなばたつめと言ったのだろうと思います。」

・妬心の女神、妬心の皇后

「仁徳天皇のお妃、皇后になった磐姫(いはのひめ)という女性が、また大変激しい焼き餅の女性であります。さすがの仁徳天皇も辟易するような女性で、古事記の中にその物語が細やかに伝えられています。これはもちろん物語ですから――物語といいますのは、魂を宿している語りなのだと折口信夫は言っています。」

かくばかり恋ひつつあらずは高山の磐根(いはね)し纏(ま)きて死なましものを
(万葉集 巻2 相聞歌)

秋の田の穂の上(へ)に霧(き)らふ朝霞いづへの方にわが恋ひやまむ
(万葉集 巻2 相聞歌)

・源氏物語の女性たち

「紫式部というのは日本紀の局(つぼね)とまで言われて、漢籍なんかにも大変な教養を持っていたわけですけれども、あのころの社会は、女性の倭魂、倭心を大事にするのが女性の文学の伝統、つまり日本固有の伝統を守っていくのが。男の方は、漢詩漢文、そして漢才(からざえ)というものを誇ったわけありまして、その漢才や仏教的な宗教観というものが、日本的な伝統を抑えてしまう。そのぎりぎりのところで、日本的な伝統の心を『源氏物語』の中に綾織の多様な折り目を出しながら展開していったのが、紫式部という女性の優れたところである。つまり古代を非常に新しい形で次の時代に展開させる、そういう才能を男性の及ばない形で持っていた女性でもあったというふうなことが言えるだろうと思います。」

コンテンツ名 第3回 Genjiフォーラム・スペシャル 源氏物語とシェイクスピア作品との対話
収録日 2006年3月14日
講師 岡野弘彦

会場:東京・上智大学中央図書館
主催:上智大学ルネッサンスセンター、財団法人エンゼル財団
2006年3月「第3回 Genjiフォーラム・スペシャル 源氏物語とシェイクスピア作品との対話」が、東京・上智大学で開催されました。このコンテンツでは、当日の模様をお伝えしています。

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