源氏物語を世界中の人々に伝えたい 英訳を通してみた源氏物語(ピーター・ミルワード)

源氏物語を世界中の人々に伝えたい 英訳を通してみた源氏物語(ピーター・ミルワード)

第1部 「世界文学としての源氏物語の魅力」

講演 「英訳を通してみた源氏物語」

milwad[1]

ピーター・ミルワード (上智大学名誉教授)

  1. 日本語の魅力 ことわざと俳句、そして駄洒落
  2. 『源氏物語』の印象
  3. カトリックの目でみるとより味わいが深い『源氏物語』
  4. 『源氏物語』3つの英訳それぞれの面白さ

1.日本語の魅力 ことわざと俳句、そして駄洒落


(再生時間 14分16秒)

「日本に来てから、もう50年となっています。1954年9月2日に横浜に到着しました。イギリスのサウザンプトンから日本の横浜まで参りまして、まず第一に、2年間、日本語という難しい言葉を勉強しなければならなかった。時々、『日本語は難しい?』と聞かれると、『いえ、難しいのではなく、不可能だ』と答えます。でも、日本語の勉強には長所がいろいろありました。魅力がいろいろありました。」

・英語にも諺が多いのはシェイクスピアのおかげ

・日本人はことざわによって思考しているのでは?

・英訳すると意味がなくなるような気がする芭蕉の俳句

古池やかわず飛び込む水の音
[意味のない2つの英訳]
The old pond / a frog jumps in / the sound of water.

The ancient pond / a flog jumps in / plop.

・シェイクスピア文学に合うのは能よりも歌舞伎
・近松門左衛門とシェイクスピア/『曽根崎心中』と『ロミオとジュリエット』
・夏目漱石とシェイクスピア/『こゝろ』と『ハムレット』

・今回のフォーラムをきっかけに『源氏物語』の3つの英訳書を楽しむ
・『源氏物語』英訳の内容が原文からかけ離れていることに驚く

2.『源氏物語』の印象


(再生時間 19分31秒)

「紫式部は日本にとって偉大な女流作家であるだけでなく、イギリス、フランス、ドイツなど、どの国と比べてみても、なかなか偉いと思います。ちょうどそのころ、ヨーロッパは暗黒時代の真ん中だったのでほとんど偉大な著者が見えない。日本で平安時代にすでに紫式部さんがでてくるのはとてもすばらしいと思います。」

・イギリスでは16世紀が女性の時代。また18世紀に女流文学が盛んになった
・英文学で紫式部に一番似ている著者はジェーン・オースティンでは?

わたしのわがままな印象
・『源氏物語』の登場人物は圧倒的に女性が多く。著者の関心も貴婦人が中心
・戦争がまったく登場せず、かわりにさまざまな祭りが描かれている
・着物や音楽、庭、植物などが詳しく述べられているが動物は少ない
・自然の描写は表面的で、その背後に愛や恋の意味が隠されている
・物語には悲劇が必要だが『源氏物語』の悪役といえばレディ・コキデン(弘徽殿)

3.カトリックの目でみるとより味わいが深い『源氏物語』


(再生時間 9分19秒)

「私は上智大学で教えているイエズス会の神父だから、『源氏物語』における宗教的な意味が非常に魅力的だと思います。ただ平安時代の宮廷を描くだけではなく、やはりその時代の仏教とか、神道とか、いろいろ出てきます。もちろん葬儀とか、悪魔祓いとか、いろいろな種類の祈りが出てきますから、中世時代のカトリックに非常に似ているような気がします。プロテスタントの目で見ますと、すべてが迷信にすぎないと思われるけれども、そのためにこそ西洋のカトリックに似ていると思われます。ですから、カトリックの目で見ますと、『源氏物語』をなお深く味わうことができるんじゃないかと思います。」

・ユーモア豊かな紫式部のコメントは中世文学のチョーサーにも似ている
・しかしあまりにも長すぎるナレーションと多すぎるエピソード
・登場人物には名前がほとんどない
・エピソードとエピソードの間が混乱している

4.『源氏物語』3つの英訳それぞれの面白さ


(再生時間 14分42秒)

「面白いことに、(『源氏物語』の)テキストを読んでいる間、どの翻訳でもいいけれども、シェイクスピアの言葉が何度も出てきます。恐らくウェイリーさんとか、サイデンスティッカーさんとか、タイラーさんとか、みんな英文学を勉強したときにシェイクスピアの劇を暗記したんじゃないかと思われますし、シェイクスピアの言葉が英語に非常に深く入っているので、別に意識しなくてもシェイクスピアの言葉が出てきます。私も英語の話をすれば、必ずシェイクスピアの言葉が知らず知らずのうちに出てきます。」

3つの英訳を比較して
・原文に一番近いのはタイラー訳。もっとも離れているはウェイリー訳
・『源氏物語』をイギリスの読者に知らせるため、自由に翻訳したウェイリー
・学問的な立場から直訳的に訳したサイデンステッカーとタイラー
・翻訳者によって、チャプターのタイトルや登場人物の名前も違ってくる

コンテンツ名 Genjiフォーラム・スペシャル2 世界文学としての『源氏物語』~源氏英訳の課題と可能性をめぐって~
収録日 2004年2月28日
講師 岡野弘彦、ピーター・ミルワード、渡部昇一、コーディネーター:松田義幸
簡易プロフィール

講師:ピーター・ミルワード

(上智大学名誉教授)

肩書などはコンテンツ収録時のものです

会場:東京・学士会館
主催: 中央公論新社、財団法人エンゼル財団
協賛:森永製菓株式会社、森永乳業株式会社
2004年2月「Genjiフォーラム・スペシャル2 世界文学としての『源氏物語』~源氏英訳の課題と可能性をめぐって~」が、東京・学士会館で開催されました。このコンテンツでは、当日の模様をお伝えしています。

刊行書籍

研究成果は『エンゼル叢書』シリーズ(PHP研究所)や
機関誌として刊行しています

詳しくはこちら

所蔵古典書

森永エンゼルカレッジで所蔵している
古典書をご紹介します

詳しくはこちら

さまざまな分野に精通し、経験、知識豊富な講師の方々をご紹介します。

講師プロフィール

pagetop