源氏物語全講会 | 岡野弘彦

第188回 特別講義 「日本の創意 - 源氏物語を知らぬ人々に与す」

「文藝春秋」2014年新年特別号に掲載する「わが魂の『枕の山』」から始まり、折口信夫、斎藤茂吉、本居宣長に触れ、掲載した七首を解説する。そして、折口信夫の「日本の創意 - 源氏物語を知らぬ人々に与す」について説明していく。

わが魂の『枕の山』

・宇治十帖は違う人が書いたのだろうと言われている。

「古代的な感じ」から「中世の感じ」に変わっている。

・「文藝春秋」の新年号に歌を七首詠む

ちょっと今までと気分が変わった歌ができたなあ、と思った。

・折口信夫と外人墓地を歩いた時の思い出

・斎藤茂吉と釈超空の違いは、人麻呂と黒人の違いに重なってくる。

・本居宣長は三十代であれほどに源氏物語を深く読めたから、三十代を境にして古事記伝の著作に取り組んだ。

賀茂真淵は万葉調、本居宣長は古今調

・宣長の最後の歌集、「枕の山」

夜布団に入ってから、枕に頭を横たえてから、幻の花、桜を見る。

夜ごと夜ごと、桜が幻で浮かんで300首。

・宣長の「枕の山」を意識した、「わが魂の『枕の山』」(「文藝春秋」2014年新年特別号に掲載)

折口信夫「日本の創意 - 源氏物語を知らぬ人々に与す」(1)

・折口信夫の源氏物語感、源氏物語評

昭和18年、19年の戦争末期に自筆で手帳に書いた、短いが内容の深い源氏物語論、「日本の創意 - 源氏物語を知らぬ人々に与す」。

・「源氏物語を知らぬ人々に与す」とは

漢学者が憧れていた中国の人々に読んでもらうことを意識していた。また、中国の影響の中で日本の物語が作られた、と思っている日本人にも向けられている。

・怨霊の問題

源氏物語の中の日本的な特質をもっている部分、中国の神仙譚とは自ずから違った形で成り立っている、と思われる、しかし同時に、日本人の心理の古い問題にテーマを据えて語っている部分に注目する。

・折口は、渋谷の丘を下りながら菊池武一さんと話していた。

國學院では菊池さんと話すことが多く、シャーロック・ホームズの話をしていた。

三田の山上で話し合っていたのは西脇順三郎

シャーロック・ホームズについて書いた「人間悪の創造」

http://www.aozora.gr.jp/cards/000933/card42212.html

・「怨霊が人間の感情を理会して、之に譲歩する一度々々の描写は、Novelの上に、Romanceが、如何程まで、真実性を持つことが出来るかを有力に示している。」(『折口信夫文芸論集』からの引用)

この辺は、丸谷才一さんが生きていたら「もうちょっと僕に砕いて説明してよ」と言いたいところですが、もう彼はこの世の人でないから残念です。

・第一次源氏物語

折口の「第一次源氏物語」という言葉はなかなか難しい。

源氏物語の構成的問題とも絡んではくるが、この論文の中では、日本人の神話、物語を生み出す心理的なものの奥に潜んでいる第一次段階、第二次段階と読める。

・第二次の源氏

折口信夫は心が乗ってくると、読者の理解を考えずに書いてしまう。文章の間に飛躍がおこってくる。それをどう読み解くかが、折口信夫の文章の難しいところ。ここもそういうところ。

折口信夫「日本の創意 - 源氏物語を知らぬ人々に与す」(2)

・第一次源氏、第二次源氏

現代の作家が長編小説を書くときの第一次段階の構想、第二次段階の構想と言うのではないと思う。日本人の心の伝承の中における、怨霊の最も古い形、それに対して、時代が経過して第二次段階の変化をもった形と言う意味で折口は考えていると思う。

・日本の古い物語は、中国の小説を模倣したもの、というふうな簡単なものではない。

・『丹後国風土記逸文』から「奈具社(なぐのやしろ)の由来」

・源氏物語は、中国の小説の踏襲ではなく、日本人根生いの系譜、神話から物語への系譜を踏んでいる点が多いことを言おうとしている論だと思う。

・貴種流離譚

折口の基本的な考え方。

古代から日本人が自分たちの理想の人物の物語として語っていく、その物語の主人公の備えなければならない条件として、「貴種流離」というテーマがある。

・この論文「日本の創意」

日本人の創造的な意欲の伝承、物語、小説というものを追求している。

日本人の心の底の一番必然的な情念が起こってくる問題、起こってくる地点を、繰り返し繰り返し、例を変えながら説いている。

 

「日本の創意 - 源氏物語を知らぬ人々に与す」、「人間悪の創造」は共に、『折口信夫文芸論集』折口信夫(著), 安藤礼二 (編)(講談社文芸文庫) に所収されています。

コンテンツ名 第188回 特別講義 「日本の創意 - 源氏物語を知らぬ人々に与す」
収録日 2013年11月30日
講師 岡野弘彦(國學院大學名誉教授)

平成25年春期講座

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