エンゼル美術ラボ アートをみる目
01 ゴッホ「ひまわり」編
名画と言われる作品には、たくさんの人が心を動かされる魅力があります。
魅力を見つける事が出来ると、作品を見ることがきっと楽しくなります。
いつもとちょっと視点を変えると何かが見えてくるかもしれません。
アートを⾒るって難しい!?
アートには、価値を偏差値のように点数で表したり、勝ち負けを決めるルールや物差しがありませんが、ある作品には強く心が引かれたり、大きく感動したり。
名画と言われる作品には、たくさんの人が心を動かされ、面白いと感じたり、美しいと思ったり、いろいろな魅力があり、何百年も前の絵が今も人々の心を動かしているのです。何が心を引き付けているのか。自分は何を感じたのか。教科書でおなじみの、あの有名な「ひまわり」をまずは一緒に鑑賞してみましょう。
「ひまわり」をじっくり⾒てみよう
思ったこと、感じたことを言ってみよう。
・ひまわりの花をこんなにたくさん。大好きな花だったのかな。
・これって全部ひまわりなのかな? ちょっと菊の花にも見えるような・・・。
・黄色いひまわりにきいろい壁。きいろが好きだったのかな。
・ひまわりがグネグネしていて生き物みたい。
いろいろな感想が出てきましたね。
ちょっとだけ視点に変化を与えると、もっといろいろなことが見えてきます。
いっしょに絵を見ながら、ポイントをちょっとだけお教えしましょう。
再生時間 約6分40秒分
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⻩⾊にキイロ?
黄色のひまわりが黄色の壁の背景で描かれています。花瓶も黄色です。黄色のひまわりの花を目立たせるためには、背景はもっと違う色の方が良いのになぁと思いますが、どうしてゴッホは黄色の背景に黄色のひまわりを描いたのでしょう?
実はゴッホは、この黄色い背景に黄色いひまわりを描く前に違う色で試しています。
最初は、この絵のように青い背景に黄色いひまわりを描いていました。
だいぶ印象が違いますね。
ゴッホは色の組み合わせ等を研究をしていて、黄色と青のようなお互いの色を引き立てる組み合わせでも描いていました。こういった組み合わせは、ほかの画家たちも描いていましたが、ゴッホはもっと明るい絵を描いてみたいと考えたのです。
黄色といってもさまざまな黄色があり、その黄色だけを使って絵を描いたら、どうなるのかという研究をしようとしていました。
ひまわりが枯れている?
ちょっと枯れてる部分もあると思ったんですが、
どうしてゴッホは咲いているひまわりと枯れているひまわりを描いたのでしょう?全体的に見るととてもいきいきとして見えるのですが、一部のひまわりは、花びらが落ちてしまった可能性もあります。
ゴッホが残したたくさんの手紙から、枯れたひまわりを描いた理由については書かれていませんが、とても宗教に関心を持っていたことが分かります。聖書についても大変よく勉強していました。そのため、人間が生まれてくること。死んでしまうこと。
人間の生死について考えていた可能性があります。
もしかしたら、そういったことをひまわりの絵の中に表していたかもしれません。
あふれ出るひまわり。倒れそうな花びん。
このひまわりの絵では、とても小さい花瓶にたくさんのひまわりが活けられて
います。あふれ出てしまいそうです。
どうしてゴッホは、こんな構図で描いたのでしょう?
実は、この絵に描かれている花瓶なんですが、これが多分そうではないかという花瓶が残されていて、実物の花瓶は、この絵のような本数のひまわりを入れるときっと倒れてしまいそうな小さな花瓶です。
花やコップなど動かないものを描いた絵のことを静物画といいますが、ゴッホはたくさんの花の静物画を描いていました。花の静物画を数多く描くことで、絵を描く練習をしていたようです。
人物を描く場合には、モデルを頼みます。そうするとモデル代がかかるためお金が必要になってしまいます。花は、周りにたくさん咲いていたのでお金をかけずに描くことが出来ました。
花の絵を描く中で、色の組み合わせや構図を研究していたようです。はじめは見た通りに描いていました。研究が進むにつれ、絵として完成した時に一番美しい構図になるように描いていたようです。
再生時間 約5分52秒分
気になる⾚い点のナゾ。
ひまわりの絵の中に、赤い丸がひとつだけあります。
実際のひまわりの花には、こんな丸はありません。これはどういうことなのでしょう?
この赤い丸のことは、たくさんの人から同じような質問を受けます。
実際のひまわりの花には、このような赤い丸はないと思いますが、この丸があるのと、ないのとではがらりと印象が変わってくると思います。
ゴッホがひまわりを描いていた時代には、もう写真が出来ていました。かつて絵画は実物をそっくりに描くことを目標にしていましたが、その役割が写真に変わってきていました。ゴッホをはじめ多くの画家たちが「絵を描くということは、なんだろうか」と考え始めた時代でした。
絵として美しいかたち、構図を研究していたように、絵の中でどういう色を使ったら絵が引き立つかを考え、いろいろ工夫していました。
ゴッホは何枚もひまわりの絵を描いていましたが、赤い丸の時もあれば、花の中を青色にしたものもありました。
ひまわりの花はお気に⼊り?
ゴッホは、ひまわりの絵を何枚も描いていましたが、どうしてそんなにたくさ
んのひまわりの絵を描いたのでしょう。
ひまわりの花に何か特別な意味があったのでしょうか。
ひまわりの絵は、南フランスのアルルというところで描かれました。ゴッホは、そのアルルの家に画家の仲間たちを呼ぼうと考え、家の中をひまわりの絵で飾ろうとたくさん描いたようです。
仲間の画家の一人に、ゴーギャンがいました。ゴーギャンは、ゴッホがアルルに来る以前に描いたひまわりの絵を気に入っていました。それを知ったゴッホは、ゴーギャンを迎えるために、家の中をひまわりの絵でいっぱいにしようとたくさん描きました。
ゴーギャンは、アルルではなく他のところへ行きたいと思っていましたが、ゴッホの弟のテオに「ぜひアルルのゴッホの家に行って、一緒に住んで欲しい」と頼まれ、アルルに行くことになりました。
ゴッホは⽇本が好きだった?
ゴッホは、着物を着た女の人の絵を描いたり、日本の浮世絵のモチーフを絵に取入れたりしていました。日本に来たことはありませんでしたが、日本の文化にとても興味があり、好きだったようです。
「ひまわり」を鑑賞して
ゴッホのひまわりをじっくり楽しんで見ることができたでしょうか。
少しずつ自分なりの視点を持つことが大切です。
そうすればきっと楽しくなってくるはず。
美術館は新しい発見と冒険に満ちています。
自分ならではの新しい発見や感動を探してみよう。
まずは近くの美術館に足を運んでみてください。
転載 | 「解説フィンセント・ファン・ゴッホひまわり」 小林晶子(著)、SOMPO美術館(監修)、求龍堂 |
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協力 | SOMPO美術館 |
美術館へ⾏こう!
「ひまわり」を描いたフィンセント・ファン・ゴッホ
オランダの牧師の家に生まれる。27歳で画家になる決意を固め、亡くなるまでの10年間に、素描も含め、2000点以上の作品を手がける。農民の生活を主題にした初期の作品から、印象派や新印象派の影響を受けたパリ時代の作品を経て、大胆な筆致と強烈な色彩という独自のスタイルを確立するに至る。ゴーギャン、セザンヌとならぶポスト印象派を代表する画家に位置づけられ、表現主義やフォーヴィスムなど、20世紀の芸術に大きな影響をあたえた。
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「ひまわり」の話をしてくださった⼩林先⽣
国際基督教大学教養学部人文科学科卒業、成城大学大学院文学研究科博士前期課程(美学・美術史専攻)修了。
フランス近代美術史を専門とし、SOMPO美術館では「フランスの風景樹をめぐる物語」、「カリエール展」、「おいしいボタニカル・アート展」、「ゴッホと静物画―伝統から革新へ」等の展覧会を担当。
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ゴッホのある美術館SOMPO美術館
1976年、損保ジャパンが新宿に本社ビル建設の折、42階に美術館を開設、当時同社と縁のあった東郷青児画伯が自身のコレクション提供を申し出て、「東郷青児美術館」として開館しました。1987年にゴッホ《ひまわり》がコレクションに加わり、アジアで唯一ゴッホの《ひまわり》を見ることができる美術館として親しまれています。2020年7月に敷地内に建築された美術館棟に移転、「SOMPO美術館」として生まれ変わりました。年5回ほど国内外作家の展覧会を開催しています。
美術館の前庭にはゴッホ《ひまわり》の陶板複製画が設置されています。
作品の魅力を手で触れて感じていただけます。
SOMPO美術館
〒160-8338 東京都新宿区西新宿1-26-1 新宿駅西口から徒歩5分
https://www.sompo-museum.org/
050-5541-8600(ハローダイヤル)
コンテンツ名 | アートをみる目 |
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公開日 | 2024年6月25日 |
講師 | 講師:SOMPO美術館 上席学芸員 小林晶子 聞き手:野澤しおり |
さまざまな分野に精通し、経験、知識豊富な講師の方々をご紹介します。