エンゼル音楽ラボ 「クラシックを学ぶ実験室!?」【講師:スギテツ】
第1回:クラシック音楽ってなに?
バロック〜古典派時代
序論・意外と身近なクラシック音楽
みなさんは「クラシック音楽」と聞いて、どのようなことを思い浮かべるでしょうか?
学校の授業などで触れたことはあるけど、「なんだか固い」「自分では聴かない」「自分とは関係のない遠い世界の話」……。こんなことを思い浮かべるのではないでしょうか?
だけど、ふだんみんなが耳にするポップスや映画・ドラマの劇伴、ゲーム音楽、電車の発車音などの街に流れるさまざまなメロディーたちは、ルーツをたどればこのクラシック音楽に集約されることもあります。
つまり、クラシック音楽はみなさんの生活のなかにも、いまだにたくさんの影響を与えていることが言えます。
このクラシック音楽について学べば、ふだん聴いている音楽の新たな素晴らしさに出会うことができ、少し大げさに聞こえるかもしれませんが、「クラシック音楽」という、いわば共通言語によって、世界中の文化や人々に触れるきっかけにもなるかもしれません。
この『エンセル音楽ラボ』では、少し入り込みにくい印象があるかもしれないクラシック音楽の世界を、あたらしい切り口でみなさんにお伝えできればと思っています。
クラシック音楽の歴史をざっくりと把握してみよう
ひとくちに“クラシック”と言っても長い歴史があって、ここだけですべてを理解するのはちょっと難しいです。だからここでは、クラシックの歴史をざっくりと書いていくことにします。遡ればキリがないので、みなさんが教科書で聞いたとこのある作曲家がいた、17世紀初頭から紹介していこうと思います。この時代からだと、大きく分けて「バロック」「古典派」「ロマン派」「近・現代音楽」というふうに分けることができます。
お馴染みの童謡のメロディを、各時代の雰囲気で演奏してみると!?
言葉だけだとなかなか難しいと思うので、シンプルなメロディを各時代の雰囲気に当て込むという実験をしてみました。
たった6音だけで成り立っている童謡『むすんでひらいて』のメロディを、「バロック」「古典派」「ロマン派」「近・現代音楽」それぞれの時代を代表する曲の特徴と順を追ってミックスして、実際に演奏に挑戦してみたので、ぜひ聴いてみてください。
なんとなく特徴が変化しているのがわかったでしょうか?
まず最初に聴こえてきたのは《バロック時代の作曲家》バッハの「G線上のアリア」。「むすんでひらいて」が、いきなり癒し系になっちゃいましたね。
そして、急に加速させた部分は、《古典派時代の作曲家》モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」との掛け合わせ。テンポ感は原曲に近いけど、ちょっと軽やか過ぎたかな?
そして、サビからは拍子を4/4から3/4にしてみました。《ロマン派時代の作曲家》で、ワルツの王様と称されるヨハン・シュトラウス2世をイメージしてみたのですが、社交ダンス風にむすんでひらかなきゃならなそうですね。
最後はテンポとリズムパターンを変えて、随分ドラマチックに仕上がったのですが、この部分は《近現代の作曲家》ラヴェルの名曲「ボレロ」を引用してみました。
クラシック以前の音楽ってどのようなものだったか?
もともと西洋の音楽のルーツは、教会で歌われた「聖歌」と言われています。最初は伴奏もなく、祈りの言葉を唱えるだけだったのに、みんながアレンジを加えはじめて、テンションが盛り上がっていくなかで、だんだんメロディがつくようになりました。そしてさらにハーモニーが生まれ、楽器で伴奏をするようになってきました。6世紀ごろからの「中世音楽」と言われる時代です。それが、15世紀には「ルネサンス音楽」と言われる、合唱曲を中心とする声楽の栄える時代に移り、これが「クラシック音楽」のルーツとされています。そして、17世紀以降から、「バロック」「古典派」「ロマン派」「近・現代音楽」と続いているのです。
それでは実際に聴いてみよう! バロックの前の時代、音楽はこんな感じだったというのがわかると思います。
ひとつめの動画はグレゴリオ聖歌、ふたつめの動画は、ルネサンス音楽です。
いかがでしたか? 想像よりもシンプルに感じたのではないでしょうか? これが「クラシック」より前の音楽っていうことになります。
この時代の特徴としては、3拍子とか4拍子とか、拍子感がまったくなかったり、ハーモニー(or ハモり)がない単純な旋律だったり、エンディングも曲が終わった感じがあまりしなかったり……。あくまでも歌うことによって神様を感じたり、神様に捧げたりすることが目的なので、人に聴いてもらっていい気分になってもらったりする必要がないし、そもそも歌が快楽と結びついてはいけなかったようです。
私感なのですが、日本で言うと、「能」や、歌ではないけど「お経」の節回しに近いニュアンスかもしれません。お経を、「いい歌だなあ」って聞く人はあまりいないでしょう(笑)。
バロック時代
そして、ここからがぼくらが定義するクラシック音楽の時代に入ってくることになります。最初は、「バロック時代」というものがありました。コロンブスがアメリカ大陸に渡ったのが1492年。日本では戦国時代がはじまり、織田信長の時代から江戸時代へと変革していくあたりからはじまる年代と言えば、なんとなく時代を把握しやすいのではないでしょうか?
17世紀から18世紀前半にかけて、楽器の進歩に伴って、器楽音楽(=インストゥルメンタル)が発展。声楽音楽に連なるかたちでオペラなどの歌劇が生まれてきました。この時代の代表的な作曲家はこちら!
西洋音楽の基礎を構築し、日本の音楽教育では「音楽の父」と称されたバッハ。
同時代に活躍したヘンデル。さらに、ヴィヴァルディ。共通点は何か思い当たるでしょうか?
そう、ヘアスタイル!
この時代の音楽家は、今でいう「スポンサー」ありきの時代だったのです。つまり、王族、貴族たちが宮殿や庭園で、食事・舞踏などのイベントを開催する際の演出の小道具に過ぎなかったのです……。王族、貴族に仕えていたことから、この時代は「カツラ世代」でもあります。ということで、バロック時代の音楽をひと言で表すと
「王族・貴族のためのBGM」
じゃあ実際に聞いてみましょう!
結構、聴き覚えのあるメロディもあったのではないでしょか?
全体的に優雅なイメージで、あまりドラマチックな雰囲気の曲がない気がしますね。それもそのはず、この時期は楽器の種類も少なくて、今のような大人数の「オーケストラ」はまだ存在していなかったのです。
最後に聴いてもらったヴィヴァルディの「春」も、編成はヴァイオリン、ヴィオラ、チェロといった弦楽器が中心ですが、ピアノよりも線の細い音色が混ざっていたのに気づいたでしょうか? 実はこの時代はピアノがまだ生まれる前で、その前身ともいえるチェンバロ(ハープシコード)っていう楽器なのです。
チェンバロの演奏
この「バロック時代」が、クラシック音楽、さらにジャズ、ロック、ポピュラーミュージックなど、その後に生まれたさまざまな音楽の礎を作った時代と言えます。
今となっては当たり前ですが、長調・単調の区別や、和音の概念など、基本的なルールが確立した時代でもありました。
バンド経験者にはお馴染みの、「コード」なんていう言葉が生まれるのは、ずっと先の話ですけど、例えばドミソでCmaj →ドファラでFmaj、みたいなコード進行も、この時代の楽曲には既にあったということです。
そんな、全ての音楽に通じるターニングポイントだったのにも関わらず、あくまでも王族たちの小道具に過ぎなかった音楽の時代。そのため、その曲を後世に残そうという考えもなく使い捨てにされちゃっていました。先ほど演奏したビバルディの「四季」も、20世紀に楽譜が再発見されるまで陽の目を見なかったらしいです……。
以上が、バロック時代でした!
スギテツ的ひとことまとめ
バロック時代をひとことでいうと
音楽の基本、整ったんじゃね?
覚えましたか?テストにはたぶん出ません。
スギテツ的音楽トリビア
バッハはビッグダディ!?
音楽の父と言われたバッハは、20人もの子供の父でもありました。それだけの子供を育てるためか、かなりのドケチでも知られていたとか……。2番目の奥さんがなかなかのやり手で、楽譜の清書をしたり、内助の功も相当なものだったらしいです。
ヘンデルは音楽の母?
バッハが理論武装に基づいたカタめの音楽だったのに対して、メロウな曲が多かったヘンデル。そんなイメージから、日本では「音楽の母」と称されていますが、もちろん男性。髪型のせいでもありません!?
古典派時代
さて、「バロック」のあとに登場するのは、18世紀中頃から登場するこの「古典派」時代です。ちょうど、1730年代から1820年代まで続きました。
この頃、世界では何が起きていたかと言うと、ヨーロッパでは産業革命が起きて、これに伴い社会構造が大きく変化していました。フランスでは市民によるフランス革命(1789年)が起こります。アメリカでは独立戦争(1775年〜1783年)が勃発。イギリス支配を拒否したアメリカが独立し、正式にアメリカ合衆国という国が誕生しました。
日本では『あばれんぼう将軍』でおなじみの徳川吉宗が江戸幕府第8代将軍(在職:1716年〜1745年)だった時代と言えばわかりやすいと思います。他には、杉田玄白、前野良沢らが『解体新書』(1774年)を出したり、平賀源内がエレキテルを復元(1776年)したのもこの時代です。
代表的な作曲家はこちら!
「シンフォニーの父」と言われ、生涯で100曲以上も交響曲を作曲したハイドン。
神童と言われ、ハチャメチャな人生を送った天才、モーツァルト。女性にもモテモテだったとか!
対して生涯独身、苦悩する天才、ベートーベン。晩年は難聴に苦しみながらも曲を書き続けた逸話もとても有名ですよね。
それではそれぞれの楽曲を聴いてみよう!
この時代になると、聴き馴染みのある曲も多いのではないでしょうか? バロック時代に比べると、随分カラフルな印象もありますよね。音楽的な変化を説明しようとするとどうしても難しい用語を使わなければならなくなってしまいますが、大まかに表現すると、「美しく親しみやすいメロディ」が台頭してきたって感じです。僅か50年の間に、技法も理論も徐々に発展を遂げ、作曲家の個性が花開き始めていた時代です。
また、貴族や王族が、自分たちの娯楽のために音楽家を雇っていた時代から、一般の市民に向けてコンサートを開催するようになりました。単なるBGMから「音楽を聴く」目的の聴衆が生まれはじめたという、画期的な時代と言えます。
ハイドンは生涯貴族に仕えましたが、モーツァルトは宮廷に召し抱えられていたにも関わらず、主人とソリが合わずに追放、ベートーベンに至っては「世界初のフリーランス・ミュージシャン」とも言われています。
過渡期ということでカツラと地毛が混在しているけど、ひとことで言うと、古典派はこんな時代です。
「パトロンから市民へ!」
楽器にも注目してみよう! まず「ピアノ」という楽器が生まれたのがこの時代。さらに、弦楽器や管楽器も改良が進み、いわゆる「オーケストラ」というスタイルも定着し、交響曲もたくさん生まれています。
そして、このころになると楽器の演奏法にも変化が生まれました。例えば「ビブラート」という演奏法。みなさんも、カラオケで歌うときにかけまくっているかもしれません。
これ、実はバロック時代にはあまり使われていなかったようなんです。実際にヴァイオリンのビブラートを聴いてみましょう!
これがビブラートです!
この「古典派の時代」に、“音楽を聴く”ために会場に足を運び、不特定多数の観客を相手にしたりする今でいう「ライヴ」が始まり、作り手も雇われ主の意向に沿うのではなく、自分の表現したい音楽を追及する、いわゆる「アーティスト」という立ち位置が生まれました。レコードもラジオもない時代だから、楽譜の出版という形で、音楽がビジネスとリンクし始め、いわゆる「商業主義」と「芸術至上主義」の葛藤はこの頃から現代まで続いています。
この時代以降のクラシック音楽の礎を作り、多くのフォロワーを生み出した、言わばポピュラー音楽におけるビートルズのような存在で、「古典派」のネーミング通り、クラシックの中のクラシックと言える時代。フランス革命など、世界的な変革の時代とも、どこかリンクしていたようにも感じますね。
スギテツ的ひとことまとめ
古典派の時代をひとことでいうと
Classic Revolution(クラシック革命)、つまり
CL Revolution!
覚えましたか?これもテストには出ません。
たぶん……。
スギテツ的音楽トリビア
上司にしたい作曲家No.1? ハイドンは部下思い
ハイドンの仕えた主人は毎年必ず避暑に出かけ、楽団員も同行したが、経費削減のため家族を連れて行けない単身赴任。ある夏、避暑の延長が決まり、早く家族のもとに帰りたい楽団員たちからブーイングの嵐。見かねたハイドンは、新たに交響曲「告別」を作曲、演奏の最後に奏者が1人ずつステージを去ってゆくという小粋な演出で、楽団員の不満を主人にアピール、無事休暇がもらえたとか。
素顔は”残念な人”だったモーツァルト?
わずか35年の生涯に900曲以上の作品を残したモーツァルト。幼少時に詩人ゲーテから絶賛され、数多くの名曲を生み出した天才だが、ギャンブル好き、浪費癖などが祟り、生活はカツカツだったとか。また、実は下ネタ好きだったらしく、「俺の尻をなめろ」と題された声楽曲も存在。これを“残念”ととるか、人間らしさを垣間見るかは貴方次第!
ベートーベンはコロナに強かった!?
苦悩の作曲家というイメージも強い巨匠、ベートーベン。トレードマークのようなボサボサの髪、服装に無頓着、かんしゃく持ち、朝のコーヒーは必ず豆60粒、引越し80回超え……。常人とかけ離れたエピソードは数え切れないが、意外に清潔好きだったらしく、マメな手洗いを欠かさなかったとか。
また、ベートーベンご本人とは直接関係ないけど、CDが誕生した時、記録時間が約74分に決まった理由は、「第九」が1枚におさめられる長さが起因となったらしいです。
コンテンツ名 | エンゼル音楽ラボ シリーズ1「クラシックを学ぶ実験室!?」 第1回:クラシック音楽ってなに? バロック〜古典派時代 |
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収録日 | 2020年10月20日 |
講師 | スギテツ(杉浦哲郎、岡田鉄平) |
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