「家庭の味」から「地域おこし」まで!<br>第1回~うどんの魅力~

エンゼル食ラボ うどん編

「家庭の味」から「地域おこし」まで!
第1回~うどんの魅力~

代表的な日本の麺のひとつ、うどん。体調を悪くしたときに食べるうどん、夜食といえばうどん、家族で囲む鍋焼きうどんなど、私たちの身近な食べ物として寄り添ってくれる「麺」。
だからでしょうか、食べるとなぜか「ホッ」とするうどん。
そんなうどんを通して、日本の食文化を学びましょう。

 

再生時間 約8分27秒
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うどんの魅力

うどんは一緒に行く人や場面を選びません。どんな時でも「優しく迎えてくれる食べ物」。今ではうどんの高級店もありますが、基本的に立食いうどんや一袋100円以下のうどんも美味しく、かつエネルギーになる。「温まる」というのも大事で「包んでくれる」ような存在です。

監修 小島和男さん

【監修】 小島和男さん
日本うどん学会理事 学習院大学文学部哲学科教授
専門はギリシャ哲学 手打ちうどんを嗜み、武蔵野うどんを愛する
埼玉県出身

うどんの発祥と変遷

うどんの伝来には、さまざまな説があり、起源は定かではありません。小麦粉を使った「麺の祖先」としては、奈良時代に唐(中国)から伝えられた唐菓子(からくだもの)があり、そこから饅頭や団子、麺と発展していきました。現在の形に近いうどんは、室町時代の半ばには登場。江戸時代になると、庶民もうどんを打つようになり、「うどん」の呼び方も一般化していったようです。日本各地には「我が地こそうどんの発祥」とする言い伝えもあります。

●香川県

香川県の名産である「讃岐うどん」。弘法大師(空海)から餺飥(はくたく)の作り方を教わった甥の智泉大徳(ちせんだいとく)が、ふるさとである香川県滝宮の地で両親をもてなしたのが始まりと伝えられています。

 
滝宮天満宮のお守り

滝宮天満宮のお守り

滝宮龍燈院の初代住職・智泉大徳のうどんがデザインされている

写真提供:滝宮天満宮

●福岡県

九州では、鎌倉時代の僧、円爾弁円(えんにべんえん)が宋(中国)からうどんやそばを博多に伝えたとされ、福岡市の承天寺には「饂飩蕎麦(うどんそば)発祥之地」という石碑があります。

饂飩蕎麦発祥之地の碑

「饂飩蕎麦発祥之地の碑」の石碑

写真提供:福岡市

うどん あれこれ

●「ハレの日」にはうどん

太くて長いうどんは、古くからお長寿を祈る縁起物として食べられてきました。とくに小麦の産地では、祭りや客人のもてなしなどの特別の日、「ハレの日」にはうどんを手作りするのが習わしだったようです。今でも一部地域には、さまざまな行事にうどんを打つ風習が残っています。

年明けうどん

「年明けうどん」 香川県では、2009年より年明けに縁起を担いで紅白に彩られたうどんを食べるようになりました。

出典:農林水産省「うちの郷土料理」より

●門前町で広がったうどん

寺院では日常的にうどんが食べられており、うどん打ちの技法は寺から周辺住民に伝わりました。参詣客をもてなすためのうどん店も多く出るようになり、広く親しまれるようになったようです。今でも伊勢神宮の伊勢うどん(三重県)、上州水沢観音の水沢うどん(群馬県)などは門前町で食べるうどんとして有名です。

伊勢うどん

水沢うどん

太くやわらかな麺が特徴な「伊勢うどん」。たまり醤油をベースにしたタレをかけていただきます。

写真提供:伊勢市観光協会

水沢うどん

のどごしを楽しむ「水沢うどん」は、冷やしうどんが伝統的。定番のつけダレは、醤油ダレとごまダレの2種類があります。

写真提供:渋川伊香保温泉観光協会

日本各地の「ご当地うどん」については後編でご紹介します。お楽しみに!

うどん現代史

戦後、機械で大量生産されるようになったうどん。1970年代の第一次、1980年代の第二次それぞれのうどんブーム、「讃岐うどん」の全国展開、ドライブイン型のうどん店の登場、また、家庭用の茹で麺や水でほぐすだけで食べられる麺など、うどんそのものも進化を遂げて、一層身近な食べ物になりました。

イラスト01

1970年に「讃岐うどん」が大阪万博で登場 1974年に冷凍うどんが商品化され全国区に

イラスト01

1988年に瀬戸大橋が開通して香川県への観光客が増加 雑誌で「うどんを食べに行く紀行」も連載される

それぞれの土地には「思い」があります。その土地の特色や、作った人、企画した人、その地域を盛り上げようと、新しいうどんを作った人たちの思いが乗って、伝わってきます。うどんには「思い」が乗りやすのだと思います。

いま熱い!うどん共和国さいたま

再生時間 約6分44秒
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古くから小麦栽培が盛んな埼玉県。小麦の収穫量を向上させ、生産方法を広く全国に伝えた麦翁・権田愛三(1850〜1928)を輩出しています。

「麦翁」権田愛三(1850〜1928)

画像提供:熊谷市教育委員会

県内には20種類を超えるご当地うどんがあり、バラエティの豊かさが特徴です。権田氏の出身地でもある熊谷では、2017年から3年連続で「全国ご当地うどんサミット」が開催され、埼玉県物産観光協会が「埼玉うどんパスポート(2019)」を発行するなど、官民一体でうどん共和国を盛り上げています。

バラエティ豊かな埼玉のうどんたち

こうのす川幅うどん

「こうのす川幅うどん」
荒川の広い川幅がモチーフ 強めのコシとモチっとした食感が特徴の
鴻巣市ご当地うどん

写真提供:(一社)埼玉県物産観光協会

 

武蔵野うどん

「武蔵野うどん」
小麦の大産地、武蔵野台地の農家で特別な日に供されてきたつけ麺

写真提供:(一社)埼玉県物産観光協会

 

煮ぼうとう

「煮ぼうとう」
地元出身、あの渋沢栄一も愛したと言われる深谷地域の郷土料理

写真提供:(一社)埼玉県物産観光協会

 

ここが推し!埼玉を日本一の「うどん県」にする会
会長 永谷晶久さん

2015年から活動開始。うどんの生産量を2015年時点から100倍にする活動中。SNSによる「うどん」のPRや書籍の出版やテレビ出演などで、埼玉うどんの魅力を発信している。東大うどん部名誉顧問。

永谷晶久さん

埼玉県のうどんの特徴は、その種類の多さです!
つけ麺タイプの「武蔵野うどん」、焼きうどんの「鳩ヶ谷ソース焼きうどん」、そして1万円札になった実業家・渋沢栄一(埼玉県深谷市出身です!)も好んで食べた「煮ぼうとう」など、種類が異なるうどんが、なんと20種類もあります!活動を始めて10年になりますが、埼玉県民たちのうどんへの関心が高まっているのを実感しています。埼玉愛が深くなるにつれ、ご当地うどんに目を向けるようになり、うどん共和国を県民が支えていることの表れでしょう。

うどん共和国さいたま 探訪記

鳩ヶ谷の名前をうどんで残したい!地元の熱い思いで生まれた「鳩ヶ谷ソース焼きうどん」

古くは日光御成道の宿場町として栄えた鳩ヶ谷。「追い風の機運に乗るお不動様」で人気の不動明王像がある「地蔵院」、徳川家康が境内で休息したと言い伝えられる「氷川神社」など歴史ある寺社のほか、昭和初期に建てられた瀟洒(しょうしゃ)な洋館や酒屋、民家などが街道筋に並び、今も当時の面影を見ることができます。
そんな歴史ある街で誕生したのが「鳩ヶ谷ソース焼きうどん」です。2008年、鳩ヶ谷商工会青年部が当時の鳩ヶ谷市長から「B級グルメでまちおこしが出来ないか」と相談を受けたことに始まります。当時、鳩ケ谷市内で操業していたブルドックソース株式会社鳩ヶ谷工場と共同開発。埼玉県内から全国各地のイベントに出店するなど普及活動をスタート。地元の飲食店でも提供されるようになり、知名度も高まると埼玉県の食育郷土食にも認定。現在では県内の学校給食メニューとして提供されています。
2011年の川口市との合併で消えた「鳩ヶ谷」の地名を語り継ぐうどんとして、県民のソウルフードに育てていこうという熱意にあふれています。

 
[鳩ヶ谷ソース焼きうどんのあゆみ]

2008年 鳩ヶ谷商工会青年部が「鳩ヶ谷ソース焼きうどん研究会」を立ち上げる
2008年 ブルドックソース株式会社との共同開発がスタート
2008年 「第3回埼玉B級ご当地グルメ王決定戦」に出場 反響に手応えを得る
2009年 埼玉県の食育郷土食に認定 県内の学校給食に提供されるようになる
2011年 平成の大合併で川口市に編入合併 「鳩ヶ谷」が自治体名から消滅
2016年 川口市内のイトーヨーカドーで商品化
2024年 埼玉県内のセブンイレブンで商品化
2025年〜 各地のイベントに出店し PR活動実施中

ご当地グルメとして発展

鳩ヶ谷ソース焼きうどんを提供しているお店は約20軒(2025年2月現在)。カフェや中華店、居酒屋などお店の種類もいろいろです。鳩ヶ谷焼きうどんの定義はただひとつ「鳩ヶ谷焼きうどんソース」を使うことだけ! 具材もトッピングもなんでもOK。

「ご当地うどん」というのがたくさん出てくると思います。「郷愁」プラス「多様性」この2つのキーワードで広まっていくと思います。

最後に

「うどんはこうあるべき」と決めつけず、自由な発想と、地域の特産品や個性を生かしながら、その多様さを楽しむ。それがうどんの神髄、底力なのかもしれません。

コンテンツ名 「家庭の味」から「地域おこし」まで!第1回~うどんの魅力~
公開日 2025年3月28日
講師 小島和男 日本うどん学会理事 学習院大学文学部哲学科教授
簡易プロフィール

日本うどん学会理事 学習院大学文学部哲学科教授
専門はギリシャ哲学
手打ちうどんを嗜み、武蔵野うどんを愛する
埼玉県出身

肩書などはコンテンツ収録時のものです

制作協力:株式会社NHKエデュケーショナル

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