第8回 「桐壺」より その7
机上の椿の花を見て、彼岸花の話題になる。母に似ているという藤壺に源氏はなつかしさを感じる。そんな二人を弘徽殿の女御は不愉快に感じる。源氏は十二で元服する。
講師:岡野弘彦
はじめに
・壱師(いちし)の花をめぐって
・稲作文化と彼岸花について
「なづさひ」という言葉
母みやす所も、かげだにおぼえ給はぬを、「いとよう似給へり」と、内侍のすけの聞えけるを、若き御こゝちに、いとあはれ、と思ひ聞こえ給ひて、常に参らまほしく、なづさひ見奉らばや、と、おぼえ給ふ。
うへもかぎりなき御思ひどちにて、(主上)「なうとみ給ひそ。
うへも、かぎりなき御思ひどちにて、(主上)「なうとみ給ひそ。あやしくよそへ聞えつべきここちなむする。なめしとおぼさでらうたくし給へ。つらつきまみなどは、いとよう似たりしゆゑ、かよひて見え給ふも似げなからずなむ」など聞えつけ給へれば、をさなごゝちにも、はかなき花もみぢにつけても、心ざしを見え奉る。こよなう心よせ聞え給へれば、弘徽殿の女御、またこの宮とも御なかそばそばしきゆゑ、うちそへて、もとよりの憎さも立ちいでて、ものし、とおぼしたり。
よにたぐひなしと見奉り給ひ、名だかうおはする宮の...
よにたぐひなしと見奉り給ひ、名だかうおはする宮の御かたちにも、なほにほはしさはたとへむかたなくうつくしげなるを、世の人、光る君と聞こゆ。ふじつぼ並び給ひて、御おぼえもとりどりなれば、かゞやく日の宮と聞こゆ。
この君の御わらはすがた、いとかへまうくおぼせど、十二にて御元服し給ふ。ゐたちおぼしいとなみて、限りある事に、事を添えさせ給ふ。ひとゝせの東宮の御元服、南殿にてありし儀式、よそほしかりし御ひゞきにおとさせ給はず、ところどころの饗など、くらつかさ穀倉院など、おほやけごとにつかうまつれる、おろそかなる事もぞ、と、とりわき仰せごとありて、きよらを尽くして仕うまつれり。
おはします殿のひんがしの廂、ひんがし向きに椅子立てて
おはします殿のひんがしの廂、ひんがし向きに椅子立てて、冠者の御座、引入のおとどの御座、おまへにあり。さるの時にて源氏まゐり給ふ。みづら結ひ給へるつらつき顔のにほひ、さま変へ給はむこと惜しげなり。大蔵卿くらびと仕うまつる。いと清らなる御ぐしをそぐほど、心ぐるしげなるを、うへは、みやす所の見ましかば、と、おぼしいづるに、堪へがたきを、心づよく念じかへさせ給ふ。
かうぶりし給ひて、御休み所にまかで給ひて、御ぞ奉りかへて、おりて拝し奉り給ふさまに、みな人なみだ落し給ふ。みかど、はた、ましてえ忍びあへ給はず。おぼしまぎるゝ折もありつる昔の事、とりかへし、悲しくおぼさる。
いとかうきびはなる程は、あげおとりや、と
いとかうきびはなる程は、あげおとりや、と、疑はしく思されつるを、あさましう、うつくしげさ添ひ給へり。
コンテンツ名 | 源氏物語全講会 第8回 「桐壺」より その7 |
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収録日 | 2001年10月18日 |
講師 | 岡野弘彦(國學院大學名誉教授) |
講座名:平成13年秋期講座 収録講義映像著作権者:実践女子大学生活文化学科生活文化研究室 |
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