日米幼児・児童教育の比較文化論 教育と文化の日米比較
対話3 教育と文化の日米比較
対話
キャサリン・ルイス(ミルズ大学教授・教育学)
土居健郎(聖路加国際病院顧問・精神分析学)
コーディネーター
須賀由紀子(エンゼル財団主任研究員・実践女子大学非常勤講師)
1.第1回、第2回のレビューから
(再生時間 8分30秒)
- 日本の初等教育の良い点について
- 人間関係の重視/グループ活動・班活動の広がり
- 知的な側面だけでなく、全人的な教育への配慮がなされている
- 賞罰ではなく、内的な動機づけによる子供の成長が重視されている
「(大学では)ちょっと病気の人が先生でも、人格障害があっても、教えることができるんです。しかし小学校ではできない。逆を言えば、それくらい小学校の先生は難しいということなんです。(中略)教育者として実際に彼らがやっているのは、本当に自分を使ってやっているわけだから、小学校の先生は精神科の病気になるとなかなか復帰できない。大学は楽に復帰できる。」(土居)
2.最近の学級崩壊の傾向について
(再生時間 7分14秒)
- 小学校における学級崩壊の原因のひとつには日本の家庭の崩壊がある
- 家庭崩壊という事実についてとり上げたがらない日本のジャーナリズム
「中学校以上は時々崩壊するのは昔からある。小学校は崩壊しなかった。戦後も長い間しなかった。最近は崩壊するようになった。うまくいかなくなる。すべてがそうではないけれども、そういうことが起きている。そして、それは恐らく家庭の崩壊と関係があると我々は思う。」(土居)
3.アメリカの学校教育と家庭事情
(再生時間 5分42秒)
- 問題を抱えている子供たちに信頼感を育むことの難しさ
- 『Learning to Trust』の事例
- 学校であると同時に病院でもある教育の現場
4.「甘え」と「アタッチメント・セオリー」
(再生時間 18分9秒)
- 「甘え」の理論と「アタッチメント・セオリー」との違いについて
- 甘える機会が十分になかった子供が学級崩壊を引き起こしている
- 英語には「学級づくり」という言葉がない
- 学校をファクトリー(工場)にたとえるアメリカと、家庭にたとえる日本
土居 「日本の先生が「学級づくり」ということを言うときには、家庭づくりが頭にあるわけですよね。」
ルイス「なるほど。」
土居 「無意識のうちに、間接に。しかし、西洋の場合は、家庭をつくるというマリッジのことと教室のこととは、全然別のことだと思うでしょう。」
ルイス「そうですね。」
土居 「日本人の先生の連想は、家庭づくりと学級づくりは似ているわけです。」
ルイス「向こうだと、学校を工場、ファクトリーに例えることはあるんですけれども、家族に例えることは余りないですね。やっぱり感情の問題ですね。」
土居 「そうですね。」
5.大人になるということをどう考えればよいか
(再生時間 10分32秒)
- 「甘える」立場から。「お世話する」立場へ
- ひとの甘えがわかるようになるとき大人になる
- 他人を助けることで自分自身も助かっている米国のコミュニティ・サービス
- 学校がすすめるボランティア活動には気持ちが伴っているか
6.アメリカの教育現場に日本の教育を紹介した反応
(再生時間 5分12秒)
- アメリカでも受け入れられつつある「授業研究」の方法
- 子供たちによる自主的なクラス経営はなかなか理解されない
「本の中にエピソードが幾つかありますけれども、子供が2人けんかしていて、先生がそのけんかを見守るという場面が出てきますね。それが(アメリカの先生には)わからないんです。先生が、子供がけんかしているところを見て、それをすぐにとめないというのがわからないんです。それは先生がよくないという判断がすぐに来るんです。そういうところは、アメリカ人には受け入れにくいですね。」(ルイス先生)
7.いじめの問題をめぐって
(再生時間 10分25秒)
- 日本の学校よりも深刻なアメリカにおける「いじめ」の問題
- 中学校の入り口に拳銃の感知器がある米国の例
- 「いじめ」と「ねたみ」の関係について
- 中学校へいくと「いじめ」がひどくなるのはなぜか
8.中学校教育の難しさ
(再生時間 9分5秒)
- 中学校にはいると試験のための授業にかわる
- 人間関係を重視している先生は中学校にも多い
- 中学校以上の先生は「専門家」として授業を教える
ルイス「小学校時代は自分にとって非常に意義のあることをやってきた子供が多いと思うんです。いい学校のミニ社会をつくって、いろんな人を手伝ったりして、結構勉強の中身も面白いと思うんですけれども、中学校に入って、一番子供たちが自分で主張したいときに、自分の道をつくっていきたいと思う時期に、何か上から支配されて、何を勉強すればいいかというのが、内容も多くなって、暗記しなくてはいけないものも非常に入ってきて…。」
土居 「それは将来何になる、医者になるんですかとか、法律家になるんですかとか、経済をやるんですかとか、そういう専門志向というものが中学校のときから始まるわけですよ。そして先生と生徒、学生の関係という人間的な関係に余り価値がなくなってくるわけです。」
9.学校への責任転嫁の傾向が強い日本社会
(再生時間 5分14秒)
- 社会やマスコミからの批判が強まってきている小学校の先生
- 家庭や母親を責めるかわりに、学校の先生が責められている
「今、女性が解放されて、男女同権で、すべて同じにならなくてはいけない。そうすると、母親がだんだん家庭にいなくなりますね。しかし、それは世の中の進歩である。それを責めてはいけない。それは放っておく。それから、家庭が悪くなったのは、女のせいでも男のせいでもない。それを言ってはいけない。だれが責任を取りますか。そういうときに先生が悪いんだと。こういうふうな動きがあるんですよ、日本では。」(土居)
10.解釈豊かな内容にしたい日本の社会教育
(再生時間 12分54秒)
- 戦争など、結論のできていない問題を子供に考えさせることの大事さ
- 歴史の恥ずかしいところも教えることによって子供は育つ
「非常に皮肉だと思うんですけれども、算数、理科は、そういうノウハウは日本の小学校の先生はすばらしくあると思うんです。ただ、社会と国語はそういうノウハウ、同じ人が教えていますから、そういう教え方をしようとしたら、できないわけはないと思うんですけれども、社会と国語は余りそういう教え方をしていないんです。(中略)すばらしい算数と理科の授業ができるのだから、解釈豊かな社会と国語の授業もできるはずだと思いますけれども。」(ルイス)
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