『神学大全』と『神曲』の対話 シンポジウム ダンテとトマスをめぐって

『神学大全』と『神曲』の対話 シンポジウム ダンテとトマスをめぐって

シンポジウム「ダンテとトマスをめぐって」

symposio2

パネリスト
稲垣良典 長崎純心大学教授・九州大学名誉教授
今道友信 英知大学教授・東京大学名誉教授
樺山紘一 印刷博物館館長・東京大学名誉教授

コーディネーター
松田義幸 実践女子大学教授・エンゼル財団理事

 

1.はじめに


(再生時間 9分40秒)

シンポジウムの進行について
(コーディネーター:松田義幸)

 2.講演の補足 / 『神曲』「天国篇」におけるトマス神学 (稲垣良典)


(再生時間 15分28秒)

「天国篇の中でトマス自身が語り出すところもございますけれども、そうではなくて、ダンテが確かにトマスを読んでいる、トマスを自分なりに理解して、それを詩の形で表現しているところが確かにあると思いますので、そこのところを幾つか拾い出してご紹介いたしたいと思います。」

(ⅰ)見神と人間本性
(ⅱ)「信仰」概念
(ⅲ)「至福」概念
(ⅳ)「天使」概念
(ⅴ)至福直観とキリスト

3.講演の補足 / ダンテにおけるトマスの輝き (今道友信)


(再生時間 9分39秒)

「ダンテ自体はトマスを光源とした。相対的に見たときに、光源になったトマスの輝きの一つであろうかということはあるんですが、もう一つ、ダンテ自身が光源になっているようなところもあるのではないかというので、それが何になっているかというと、天国の本当の入り口として、つまり第9歌にいつも入り口が出てくるんですが、その天国の入り口のところに金星があって、その金星にはだれよりも早くラハブが呼ばれてきて入ったということが出ております。ラハブの前の仕事を考えてみますと、神の目から見たら到底許されないような遊女の仕事をしている人だったんですが、一生に一度だけ本当に命がけで、神の御使いと言ってもいいような予言者のお付きの二人を助けたということで、それは名もない人を助けたことなんでございますが、そのために、旧約聖書の中では天国に呼ばれる最初のグループの中にラハブが入っている。」

E’ mi ricorda ch’io fui piu ardito
per questo a sostener, tanto ch’i’ giunsi
l’aspetto mio col valore infinito. (Par. XXXIII 79-81)

思い出せばわれ このためにこそ
いよいよ心を堅くして耐え
わが目を無限の力に合わす

4.講演の補足 / トマス・アクィナスが開いた扉 (樺山紘一)


(再生時間 10分29秒)

「トマス・アクィナスは、通常しかるべき本を読みますと、中世の最も牢固な古めかしい完結した宇宙の、キリスト教だけしか考えていない、そういう古風な神学者・哲学者だというふうにしばしば書かれ、これを否定するところからヨーロッパ近代が始まったかのような書き方がしばしば行われていることに対して強い義憤を感じていまして、私はどっちでもいいと思っているんですが、余りにも公平ではないということから、学問上もそうですが、こういう場所でもいろいろ申し上げてきております。一言で言えば、ほとんど革命家トマス・アクィナスと言っていいほど、13世紀から14世紀の社会的な文化的な、もしくは思想的な転換点の中で役割を果たしたのだということは繰り返し強調しなければいけないと思っています。」

5.天国篇について対話をすることの意味


(再生時間 13分41秒)

「ダンテの『神曲』に関して申しますと、地獄篇はみんな読んで喜ぶと言うとおかしいんですけれども、地獄篇は面白いと言って読んでおられる方が多いし、様々な芸術においても、地獄篇の情景がテーマになっているところは非常に多うございます。それでも、ダンテは地獄篇を書くために『神曲』を書いたのかというと、そうではないだろう。これはダンテの概説を読めばわかりますけれども、天国篇まで書いて、天国で完結するわけですから、ダンテが大事にしている天国というものを読んでみることは、仮に天国などはないんだという考えの方があっても、象徴としてキリスト教なり宗教なりが極楽とか天国とか言われる死後の恵まれた世界をどんなふうに考えたのかということが一つの大きな問題です。」(今道)

6.天国篇について対話をすることの意味 2


(再生時間 9分46秒)

「『神曲』の天国篇は具体性があります。固有名詞があります。もともと存在の体験をもとにして描いたものでありますから、地獄篇にも固有名詞があり、煉獄にもたくさんの固有名詞があって、よくわからない固有名詞まであるんですが、同じように、天国篇には固有名詞がある。私たちはその固有名詞の中の知っている者については、この人はここに生まれ、こういうことをやって、今この天国にいるんだから、多分、天国ではこんなふうに物を考え、こんなことを思いながら希望に燃えるだろうという物事を考えるためのヒントがあります。固有名詞を仲立ちにして考えることができるヒントがある。これは恐らくヨーロッパのそれ以前、それ以後も含めて、天国を論じたものの中で最も画期的な固有名詞性を持っているという気がするんです。」(樺山)

7.天国篇について対話をすることの意味 3


(再生時間 8分4秒)

「天国というのは眠って休んで――休むというのは結構ですけれども、眠っているような意味での休んでいるというところではない。仕事とは言えないかもしれませんけれども、非常に大変な働きというか、ある意味でそこにはアクトがある。アクティブという言葉はちょっと……。でも、働き、活動がある。神様を見るということは、最高の人間の働きということ。私、わかりませんけれども、命の満ちあふれのようなものがそこで経験されて、それが幸福ということ。それ以外に、もちろん今道先生がおっしゃるように、愛の哀れみということも含まれると思いますけれども、天国は天使たちと一緒にやることがいっぱいあるらしくて――私はお葬式に参列しますと、皆さんが口をそろえて、眠ってください、休んでください、これからはすべての気遣いやそういうことから離れて休んでくださいと。一方では、幸せになってください、天国での幸せをと言って、どうして天国での幸せが眠るということになるのか。一体この人は眠るということ以上の幸せを知らないのかと私は腹が立つんです。本当の憩いというのは天国のものでしょうけれども、それは人間としての最高の活動、そこで私たちの持っている命が本当に燃え上がるということなのではないでしょうか。」(稲垣)

8.若い世代との対話


(再生時間 17分24秒)

「稲垣先生がおっしゃったことに関してですが、若い世代との対話とかそういうときに、ダンテに限りませんけれども、ただ話すというよりも、何か立派な古典的なテキストを中心にして、それを読んで何人かと対話をするとか議論をするとかいうことが、しばらく大学の中で欠けていたような気がするんです、演習の時間とか、そういうときだけやって。そして、そういうテキストを中心にしての自由な読書会があって、対話に慣れてくると、今度はテキストのないところで、コーヒーでも飲みながらとか、一緒に山登りしながら自由な対話ができる。私は自由の対話がないと精神のクリエイティビティ、創造性というのはお互いに刺激されなくなるんじゃないかと思いますので、日本の中で、そういう意味でまじめな、しかし楽しい対話とか会話とかいうのがもう少し喚起されてこなければならず、それは多分きょう皆様がおいでくだすって、ご一緒にある程度ダンテを読んだようなところもございますが、そういうものをきっかけにして話し合う雰囲気ができてくると、本当に日本中がもう少し文化的な活気が出てくるんじゃないかという気がいたします。」(今道)

9.天国へのあこがれを持ちながら今日を生きる


(再生時間 16分13秒)

「何か我々が物事を認識する、知る、見てとるというときに、こちらから相手に働きかけて解決というか、光るというか、それをある意味でもぎ取るような意味の認識、それから、こちらがそれに対するふさわしい状態、ふさわしいディスポジションができたときに初めてこちらに見えてくる。しかし、こちらの方も全くパッシブではないんですね。極度にアクティブですが、しかし見るということを可能にするのはやはり恵みのようなものとして向こうからやってくる。私はこの二つは矛盾しないと思うんです。両方とも事柄に応じてそういう違いがある。
もう一つは、知性の働きで認識するということに加えて、愛があるところに見える、悟るということで、つまり愛によって見る者と見られる者との間の非常に深い知性、一つになるということが成り立って、それで成り立つ、見るとか知識というのがあって、それは非常に大事なことではないかと思います。
」(稲垣)

10.聴講者からの質問


(再生時間 27分59秒)

Q.『神学大全』及び『神曲』がヨハネ・パウロⅡ世に与えた影響として何か読み取れるものがありますか?

Q.visio beatifica 、すなわち至福直観とvisio Dei とは同じでしょうか? また、visionとintuitioとの違いを教えてください。

Q.『Divina Commedia』のCommediaというのは世俗とのかかわりを示すとすれば、その本当の意味は何でしょうか。詩の形で書かれているということでしょうか?

Q.多神教と一神教との対立その他について、諸宗教の存在の視点、立場から言って、新しい21世紀の『神学大全』『神曲』というようなことについて、どのようなお考えでしょうか?

Q.『神曲』を原文で講読するセミナー、もしくはクラスはないでしょうか?

Q.『神曲』の原文と現代のイタリア語とではどの程度相違していますか?

Q.トマスは常にイスラムからの政治的な力を意識していたというお話がありますけれども、どうでしょうか?

Q.visio Dei ということに関してもう少し詳しく教えてください。

コンテンツ名 ダンテフォーラム in 東京 「『神学大全』と『神曲』の対話」
収録日 2005年11月13日
講師 稲垣良典、今道友信、樺山紘一、コーディネーター:松田義幸
簡易プロフィール

講師:稲垣良典

(長崎純心大学教授・九州大学名誉教授)

講師:今道友信

(英知大学教授・東京大学名誉教授)

講師:樺山紘一

(印刷博物館館長・東京大学名誉教授)

コーディネーター:松田義幸

(実践女子大学教授・エンゼル財団理事)

肩書などはコンテンツ収録時のものです

会場:新イタリア文化会館
主催:財団法人エンゼル財団・イタリア文化会館・日本経済新聞社
収録映像:著作権者 財団法人エンゼル財団

刊行書籍

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